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いさましいはなし
いさましい話
山本 周五郎
「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页
「そういうこととは知りませんでした」
玄一郎はちょっと頭を下げ、しかし平静な眼で相手を見た。
「これはまだ内密なのですが、和泉殿の松尾というひとをじつはまえから定めていたのです」
「――和泉の、……それはどうも」
津田はまったく意外だという表情をした。
「――それはしかし、貴方には貴方の選択がお有りなのだろうが、しかし」
「いつぞやちょっと申上げましたが」玄一郎は相手の疑問に答えるように云った、「――私の結婚は政略的なものなんです、単に好ましい家庭をつくるというだけではないので、そういう結婚にいためられない性質と、政略的に必要な条件をそなえている点とで、私は松尾というひとを選んだのです」
珍しく津田は眉をひそめた。玄一郎の言葉に一種の冒涜を感じたらしい。窓のほうへ顔を向け、眼を細くして高い青空を眺めやった。
「――松尾という娘は家中の若者たちの渇仰の的になっている、……当人もそれをよく知っていて、それをたいへん誇りに思っている、結婚してからもおそらくその誇りを棄てることはないでしょう、――貴方は現在より敵を多くつくるうえに、家庭でも不愉快な負担に堪えなければならない、それは想像以上だと思うのですがな」