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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

と答え、本当に妻と相談したうえで城代になった。それは大役であるから、妻にそれだけの覚悟と協力の意志がなければならない、という意味であって、当時の美談として伝えられ、藩の一気風となったのである。

このばあいは図書助の気持はすでに定っていた。即答をしては軽がるしいと思ったからそう挨拶をしたので、翌日すぐに承知の旨を答え、次席家老の益山税所が仲人となり、その月の下旬には祝言の式が挙げられた。

これは藩中にかなり大きな波紋を起こした。第一は家柄の差である。笈川は父の代には百二十石ばかりの勘定役所出仕であった。和泉は代々八百五十石の城代家老である。保守的な国許ではこんな縁組は曽てなかった。

もう一つは津田庄左衛門の云ったとおり、松尾が青年たちの憧憬を集めていて、求婚しつつあった者もずいぶんいた。それがとつぜんこういうことになったのである。

――なんだ、人もあろうに成上りの、しかも江戸そだちの人間などに。

かれらは失望しただけではなく、相手が笈川という江戸から来た人間であることに、侮辱と怒りを感じたのである。だがそればかりではなかった。結婚した当の松尾さえも、玄一郎との結婚に不服であり、屈辱だと思っているようすだった。