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いさましいはなし
いさましい話
山本 周五郎
「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页
「嫁のほうはどうだ。うまくいっているか」
「桃栗は三年、柿は八年、梅は十八年ということを申しますが、御存じでございますか」
「しかしそのなかには松はないようだぞ」
敦信はこう云って愉快そうに笑った。
在国ちゅう敦信は熱心に領内を見てまわった。玄一郎は二度ばかり供をしただけで、夏になると頻りに魚釣りを始めた。――三つある河のどれにも魚が多く、藩中にも釣りに凝る者がだいぶいた。津田庄左衛門がそのなかでも上手だそうで、玄一郎も初め津田にてほどきを受け、その後もゆくときはたいてい津田を誘うか誘われるかした。
二人はいつも由利川を二里ほど遡った、柳瀬という淵のあたりで釣った。だいたいそこに定まっていた、そうして妙なことには、どちらも魚を釣ることにあまり精を出さない、話をしたり、ぼんやり雲や水を眺め、風の音に聞きいるというふうであった。
「貴方は釣りはお好きではないとみえますな」
「いや、そんなことはありません」
「そうでしょうか」津田はとぼけたような顔で、なにやら独り頷いた。
「――まあそれはとにかく、人間に隙があるということはいいものです、弱点も隙もないという人間はつきあいにくいですからな」