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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

こんどは松尾が黙ってしまった。

青年たちとの関係は険悪になるばかりだった。役所の空気もよくない。解職された三人が蔭で煽動するとみえ、再び事務は投げやりにされ、停滞し始めた。

玄一郎はこれにも逆らわなかった。かれらはいつも茶を飲み雑談をしている、寝ころんだり、足を伸ばしたり、可笑しくない話にげらげら笑ったりする。役机の上は四五を除いて、いつも硯は乾いたままだし、書類や伝票は溜められてあった。

中年を過ぎた者で四五人、かれらより幾らかましな者がいた。玄一郎はこの四五人を相手に、自分で急ぐものから順に始末をし、かれらに対してはなにも云わなかった。

ときたまほかの老職が来て、このじだらくなありさまを見ることがあっても、眉をしかめるくらいが精々で、たいてい黙って見ないふりをした。家老格で奉行職、きもいり役の梶井外記という人は、いちど来て玄一郎を怒った。

「あんな不作法なことをさせておいては困る、役所の規律が立ちません、まるで子供部屋のようなありさまではないか」

「それはどうも」玄一郎はそらをつかって答えた、「――江戸ではこんなことはないのですが、こちらではこれが習慣だと思ったのです、郷については郷に従えと云いますからね」