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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

柔らかい弾力のある躯が、哀れなほど震えている。松尾は彼の胸へ顔を埋めるようにし、泣き笑いのようなみだれた声で囁いた。

「そうでございますわ、あなたがお悪いのでございますわ、松尾の気持を察して下さらないのですもの、――いつも平気なお顔で、澄ましていらっしゃるのですもの……なにも仰しゃらずに、黙ってこうして下さればよかったのですわ」

「この木の実はまだ固そうだったからね」

玄一郎の手がやさしく胸へまわると、松尾はああと熱い息をし、両の足をひきつるように縮めながら、さも悩ましげに頭を振った。

「こうして下されば、それでようございましたのに、ただこうして下されば、――それがとのがたの役目ではございませんの、……わたくし待っていましたのよ」

「それで明日の今夜になってようやく勇気が出たというのだね」

「わたくし少しも案じておりませんの、さきほどの笛をうかがって、またひとつあなたという方を知ることができました、――里神楽の笛と今宵の曲と、……いいえ決して決してあなたを負かすことはできませんわ」

玄一郎は黙ったまま、そっと妻の頬に頬を寄せた。縋りついている松尾の手にちからがはいり、にわかに息が熱くなった。