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いさましいはなし

いさましい話

山本 周五郎

「講談雑誌増刊号」博文館、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,835 字 · 73 页

青空文庫

と云うようにみえた。

玄一郎はすっと前へ出た。益山の顔が白くなった。玄一郎はさらに前へ出た。益山の唇が捲れて歯がむきだしになった。

とつぜん絶叫があがり、益山が飛礫のように斬り込んだ。

取巻いている青年たちはあと云った。益山は中段の刀をそのまま、躯ごと相手へ突っかけたのである。相討ちを覚悟した必死の手だ。玄一郎は僅かに躰をひらいた。そして彼の手のなかで刀が峰をかえし、きらっと空を截るのが見えた。

青年たちの眼にとまったのはそれだけである。その刹那にぼきっといういやな音がし、益山の躯はのめっていった。斬り込んだ勢いをそのままのめっていって、枯草の中に転倒し、左手で草をひきった。

「――誰か代って出るか」

玄一郎は、静かにかれらを見まわした。

「――出る者がなければ帰るよ」

みんな黙っていた。三人ばかり益山郁之助のほうへ駆けていった。玄一郎は刀を拭い、鞘を拾っておさめ、支度をなおしながら、同じような淡々とした口ぶりで云った。

「――そっちで饒舌らなければ、この場かぎりで済むだろう、私は黙っているよ、ばかげたことだからな、……しかし望まれればやむを得ない、いつどこへでも呼び出して呉れ、侍は一日一日死ぬ覚悟で生きろ、私はこう云われてそだって来た、――御奉公もそのつもりで、いつ死んでもいいように始末をしている、なにも知ら