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いしがおごる
いしが奢る
山本 周五郎
「サンデー毎日臨時増刊仲秋特別号」毎日新聞出版、1952(昭和27)年10月19日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,304 字 · 45 页
ほんの僅かな修正はあったけれども、原案の主要なものは故障なく受入れられた。
保馬は首尾よく役目をはたしたのであった。
「さあ終った、今日はひとつ三人で飲もう」
十一月はじめの或日、保馬はそう云って、堀と仲田を伴れて掬水亭へいった。自分の金で飲むのはいい心持であった。酔ってくると二人ともうたいだしたので、顔なじみの仲居をぜんぶ呼んだ。もちろん望湖庵からも来たし、いしもあらわれた。
「これは縞の財布ですな」勘兵衛がまっ赤になった顔で保馬を見た、「どうか空にならないように頼みますよ」
旅費だけでも頼みますよ、などと千之助もつまらないことを云った。
三味線がはいり太鼓がはいって、ばかばかしく賑やかな騒ぎになった。すると、それまで遠慮していたらしいいしが、
「あたしおそばへ坐らして頂こう」
と云って保馬のそばへ来て坐った。しかし誰も気がつかないようすだった。保馬はいしに眼くばせをして、そっとその座敷から逃げだした。
「あそこは寒すぎるだろうな」保馬がそう云った、「いしは風邪をひきゃあしないか」
「風邪なんかひきません、あたし大丈夫です」
「これをひっ掛けるといい」
保馬は羽折を脱いでいしに着せた。