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いわゆる「はんせい」はわれわれをすくうか

いわゆる「反省」は我々を救うか

岸田 国士

「知識人 第二巻第一号」1949(昭和24)年1月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,229 字 · 15 页

青空文庫

私の隣席には、将来、士官学校を首席で出て、今度の戦争で某方面の軍司令官になつたSという温厚謹厳な生徒がいたが、私のその様子をみて、剣の音が聞えないからだと思い込み、なんども肱をつゝいてくれるのである。相すまぬが、おれは思うところあつてわざとこれをやつているのだと、口へは出さなかつたが、それとわかるようにただうなずいてみせた。

間もなく、生徒監の靴音が、私の席の横で止つた。べつに大事件とは言えぬまでも、ちよつと例のない事件のように私には思えた。もうよかろうと思い、私は顔をあげた。黙つてそこに立つている生徒監の方をちらと見あげた。彼は、笑いたいような、怒りたいような眼附をして、私をにらんでいる。――さあ、なにか云つてごらんなさい、と、私は待ちかまえていると、その彼は、無雑作に、――あとで生徒監室へ来い、と云つて、そのまゝ立ち去つた。私は元来、この学校の性質から云つても、決して同僚から英雄視されるようなものは持ち合せてもいず、また、私もそれを望んではいなかつたと思うが、しかし、多少天邪鬼という点で人目を惹くことを快としないわけではなかつたろう。さういう気持で、実際、同僚たちの眼を背後に感じながら、私は、間もなく生徒監室へ出かけて行つた。