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おごそかなかわき
おごそかな渇き
山本 周五郎
「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页
は、泥沼の中へ落ち込んでしまう者もある」
そこへりつ子がすいとんを持ってはいって来た。村田医師は話をやめた。盆にのせた二つの丼からは、食欲を唆るいい匂いの湯気が立ってい、りつ子は盆のまま、二人のあいだにそれを置いた。りつ子は父親に、ねむいからもう寝てもいいかときいた。竹中は丼を取りながら片手を振って、風呂にはいってから寝ろ、と云った。
「うまいな、これはうまい」と云って、医師がまず丼を置いた、「だが、こいつは腹にこたえる」
丼の中には半分ちかくも、すいとんが残っていた。すると竹中啓吉も、食べ残した丼を盆の上へ戻し、箸を置きながら、口のまわりを押しぬぐった。
「いまの話だがな、村田さん」と竹中は、娘に聞かれるのを恐れるように、声を低くした、「危ないとしごろになりかかっている娘の親として、なにかいい指導法はないものだろうか」
「私にもわからないが、まずないだろうな」と村田医師は云った、「涸沢は大雨が降ると荒れるから三カ村の者が協力して堤防を造った、それが去年の豪雨でひとたまりもなく押し流されちまったし、流れの筋もすっかり変ってしまった」
「おまえさんは話をそらしてる」