轻松读懂日语经典作品
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おごそかなかわき
おごそかな渇き
山本 周五郎
「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页
「おっ母さんは」ときいて、隆二は茶碗と匙を置いた。
「いなくなっちゃったの、東京にいるとき、――あたし小さかったからよく知らないけれど、或るとき急にいなくなっちゃって、それっきり帰って来ないし、どこへいったかもわからないの、お父さんがずいぶん捜したんだけれど、どうしてもわからなかったんですって、それから、うちに下宿していた中川さんも引越してしまったわ」
松山隆二はまた右手で、眼の前を左右に払った。眼の前になにやら、蜘蛛の巣のようなものが見えるからであった。それは払っても払っても、すぐにまた見えるので、うるさかった。彼は囁くようにきいた。
「それからこっちへ来たんだね」
りつ子は頷いた、「そのほかにもいろいろいやなことがあったんですって、東京なんて人間の住むところじゃあないって、何遍も何遍も云ったのを覚えてるわ」
そして、この下の吉野村にしるべがあり、それを頼って、五年まえに移住して来た、ということであった。当時この小屋は、――りつ子は家とは云わず、はっきり「小屋」と云った、――ながいあいだ住む者もなく、すっかり荒れはてて、畳のない床板のあいだから、竹がにょきにょきと、十幾本かも伸びていたそうであった。