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おごそかなかわき
おごそかな渇き
山本 周五郎
「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页
「いや、それじゃあだめだ」と竹中が云い、自分のへぎ板から取って教えた、「こういうぐあいに、端から巻いて喰べるんです」
松山隆二は云われるとおり、熱いそれを吹きさましながら端から巻き、竹中のやりかたを見まねてかじった。それは香ばしくて歯当りはよかったが、喰べると舌にざらざらするのが気になった。うまいですね、と彼は云った。
「うまくはないさ」と竹中が喰べながら云った、「黍餅といってね、面白いことにもち黍なら粘りがあってうまいんですが、それは嗜好物で都会からの需要も多いし、したがって高価だから、われわれはもとより、作っている者の口にもなかなかはいりません、これはうるち黍で、貧農にも嫌われるまずいものですよ、けれど安価なことと腹もちがいいのと、拵えるのが簡単なので、山仕事にはもってこいです、なにしろ稗や粟より扱いやすいことは慥かですよ、――まずかったら遠慮なく残して下さい」
いいえうまいです、と松山隆二は答えた。
日は昏れてしまい、小屋の中も暗くなった。燈火用の品はなにもなく、炉の火をそのまま明りにしているようであった。食事が済むとすぐに、かまをみてくると云って、竹中啓吉は出ていった。