轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页

青空文庫

それが不条理であっても、一条の法文を変えることもできないのだ、と隆二はわかりやすいように云った。

「それじゃあお兄さんに悪いのね」

「どうしても東京へゆくのか」

「もしお兄さんに悪いのなら、あたし独りでもいくわ」

じゃあいこうかねと云い、彼はりつ子の雪を払ってやった。頭にかぶった風呂敷や、着物に雪がはり付いていたからであるが、隆二がそれを払ってやろうとしたとき、ほんの一瞬ではあるが、りつ子はぴくっと躯を避けようとした。

りつ子の防禦のけはいはほんの一瞬間のことであり、自分では意識しない本能的なものであったが、それを感じたとたん、松山隆二はふいに身ぶるいをした。――これだけは二度と思いだしてはいけない、と自分に誓ったアメリカの潜水艦と、二条の魚雷の航跡と、そして浮上した潜水艦の砲撃をあびたときの恐怖が、烈しく彼の心を緊めつけたのである。――いけない、だめだ、あのことだけは忘れるんだ、と彼は心の中で自分をどなりつけ、強く頭を左右に振った。

峠を越すと風も弱くなり、雪もやんで、雲のあいだからときどき、あたたかな陽がさした。坂の勾配もゆるくなり、枯木や杉林なども、峠のこちらではかなり明るく、のどかに牛のなく声が聞えたりした。