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おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页

青空文庫

」と油屋の親方は太い指でまっすぐに竹中啓吉の顔を指さした、「おめえ、いってえ、なんの宗旨だ」

「おれは案内されたんでここへ坐っただけだ」と竹中は答えた、「それから――おれはなに宗でもないし、神や仏を信じたこともない」

「要するにヤソだな」

「どう思おうとおめえの勝手だ、いってえなにが気にいらねえのかえ」

「神も仏も信じねえって」油屋の親方が黄色い大きな歯を剥きだしてせせら笑った、「いくらアメちゃんに負けたって、人間が人間であることには変りはあんめえが、え、アメちゃんに負けてっからもう十五年も経ってるだ」

「十六年だ」と竹中の相手をしていた男が、右隣りの席の老人に振り向いて云った、「――なあ、栃ノ木のじいさま」

声をかけられた老人は、皺だらけの陽にやけた顔を右手で撫で、口の中でなにかぶつぶつと呟いただけであった。

村長はまだミネラル・ウオーターのことを話していた。

「十五年か十六年かなんて」と油屋の親方はまたせせら笑った、「こんなおめえ原子時代に、一年や二年のちげえなんてくそくれえだ、なんの宗旨ももってねえなんて、おめえそれでも人間だかえ」

「無宗旨というのも宗旨だと思うな」