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おごそかなかわき

おごそかな渇き

山本 周五郎

「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页

青空文庫

「海にも地所があるの」

「広いようにみえるけれど、漁場といって、魚の集まるところがあるんだよ」と彼は云った、「そうすると、もともとそこを漁場にしていた漁師の隙を覘って、よその漁師たちが魚を捕りに来るんだ」

「それは魚を盗みに来るんでしょ。あたしたちはただ地面へ坐って、弁当を喰べようとしただけじゃないの、コップ一杯の水を汲んだだけで、草一本も抜きゃあしないわ」

老人はそうは思わなかったのだ。人にもよるだろうが、人間の貪欲には限度がない、「自分の土地」という考えは、合理不合理とは無関係に、人間を独占欲で縛りあげる。そこから根拠のない誇りと貪欲が生れるのだ。あの老人はコップ一杯の水を惜しんだのではない、あの空地の枯草を心配したのでもない。ただ、そこが「自分の所有地」であることを誇示したいだけだったのだ、と松山隆二は思った。

「日本は狭いからね」と穏やかに云った、「アメリカのテキサスだったかカリフォルニアだったかは、一州だけで日本の二倍も三倍もあるそうだ、そういう国だと自分の地所だとか、コップ一杯の水なんかは問題ではないだろうね」

「ふうん、だとするとお父さんがブラジルへゆきたくなるのもむりはないわね」