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おごそかなかわき
おごそかな渇き
山本 周五郎
「朝日新聞日曜版」 1967(昭和42)年1月8日~2月26日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,042 字 · 71 页
「そうらしいね、黒いだけではなく、よく見ると点々があるんだけれどね」
「あ、またあそこにいるわ、あそこにも、すばしっこいのね」
「いいね」と彼はいった。
大小さまざまな石と、透きとおるような水の流れと、その中を活溌に泳ぎまわる魚と、それは自然の活きている証しそのもののようにみえた。
「ああ、あったかい」りつ子は食いかけのむすびを持ったまま、河原へ仰向けになった、「まるで春のようだわ」
そのとき半袖のブラウスの腋から、茶色っぽい腋毛が見え、隆二はいそいで眼をそらした。
「風邪をひくぞ」
「だいじょぶよ」とりつ子は云った、「あの峠ひとつ越しただけで、こんなにあったかいのね、ああいい気持」
せきれいが一羽、ちちと鳴きながら、河原の乾いた石から石へ飛び移っていた。
――こんな静かなけしきがいつまで続くんだろう、と松山隆二は思った。
坂の勾配が急になり、ゆるやかになり、川に沿ったり離れたりしながら、しだいに里のほうへおりていった。枯草のあまやかな匂いや、杉や檜のさわやかな香りが、空気を濃く染めていた。
「聞くのを忘れていたけれど、東京に知っている人でもいるの」
「うん」