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おさん
おさん
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1961(昭和36)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 33,128 字 · 66 页
単に男と女のまじわりではなく、一生の哀楽をともにする夫婦のお互いをむすびつけあうことなのだ。そのむすびつきのうちにお互いを慥かめあうことなのだ。おれがそう気づいたとき、おれをあんなにのぼせあがらせたおさんの躯が、おさんをおれから引きはなすことに気がついた。おさん自身でも止めることのできない、あの激しい陶酔がはじまると、おさんはそこにいなくなってしまう。完全な譫妄状態で、生きているのはその感覚だけだ。呻吟も嗚咽もおさんのものではないし、ちぎれちぎれな呼びかけや訴えにもまったく意味がない。それはおれの知っているどんな女の場合にも似ていなかった。情事とはお互いがお互いの中に快楽を認めあうことだろう、与えることと受け止めることのよろこびではないか。おさんはそうではないのだ。初めはそうだったが、日が経つにしたがってそうではなくなった。よろこびが始まるとともに自分も相手もいなくなってしまい、ただその感覚だけしか存在しなくなる。男がもっとも男らしく、女がもっとも女らしくむすびあう瞬間に、むすびあう一点だけが眼をさました生き物のように躍動しはじめ、その他のものはすべて押しのけられるのだ。