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おみな

おみな

坂口 安吾

「作品 第六巻第十二号」1935(昭和10)年12月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,437 字 · 11 页

青空文庫

私はその言葉の実感には打たれたが、真実には打たれない。悲しい哉私は聖処女の値打を知らない。そして、ひとたび童貞を失った女と、売春婦と、その魂に私は全く差別をつける理由を持たない。幸福なことに、私は、働く女の美しさを知っている! 或いは、働くことによって曇りもけがれもしない魂の存在を知っている!(なぜだって? いや、のろけになるからその理由は語らないことにするよ)

然し私は老婦人の思いがけない逆説に反感を催すどころの段ではなく、むしろ、年老いてなおこんな考えを懐く女のあることに大きな驚きをなしていた。

数日の後、売薬その他いかもの類に造詣の深い友達に会い、また驚きのさめやらぬところから老婦人の言葉の通りを取次いだ。

「それは君」と友人は即座に答えた。

「天理教が同じことをいっとるぜ」

なるほど由来宗教は逆説であるにしても、こんな気の利いた理窟をこねる宗教が日本にもあったものかと私はひとしきり面白がる。

また数日の後、風の良く吹き通る二階で、私は友と、その母親と、ねそべりながら話している。母なる人の立ったあとで私は友にきいた。

「君のおっかさんは良人を命の綱のようにひとすじに信じもし愛しもしていたのだろうね」