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おせいとうじょう
お勢登場
江戸川 乱歩
「大衆文藝」1926(大正15)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,784 字 · 24 页
坊やを呼んで来るといい」
彼は虚勢を張って、快活らしく答えるのであった。此頃では、何につけても虚勢が彼の習慣になっていた。
そういう日に限って、女中達の心づくしか、食膳にはいつもより御馳走が並ぶのであった。でも格太郎はこの一月ばかりというもの、おいしい御飯をたべたことがなかった。子供の正一も家の冷い空気に当ると、外の餓鬼大将が俄にしおしおして了うのだった。
「ママどこへ行ったの」
彼はある答えを予期しながら、でも聞いて見ないでは安心しないのである。
「おじいちゃまの所へいらっしゃいましたの」
女中が答えると、彼は七歳の子供に似合わぬ冷笑の様なものを浮べて、「フン」と云ったきり、御飯をかき込むのであった。子供ながら、それ以上質問を続けることは、父親に遠慮するらしく見えた。それと彼には又彼丈けの虚勢があるのだ。
「パパ、お友達を呼んで来てもいい」
御飯がすんで了うと、正一は甘える様に父親の顔を覗き込んだ。格太郎は、それがいたいけな子供の精一杯の追従の様な気がして、涙ぐましいいじらしさと、同時に自分自身に対する不快とを感じないではいられなかった。でも、彼の口をついて出た返事は、いつもの虚勢以外のものではないのだった。