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おせいとうじょう
お勢登場
江戸川 乱歩
「大衆文藝」1926(大正15)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,784 字 · 24 页
三
と誰かが叫ぶと、ワーッと云って逃げ出して了った。そして、遠くの部屋で、
「おじさあん、出ておいでよう」
と口々に呼ぶ声が幽に聞えた。まだその辺の押入れなどを開けて、探している様子だった。
三
まっ暗な、樟脳臭い長持の中は、妙に居心地がよかった。格太郎は少年時代の懐しい思出に、ふと涙ぐましくなっていた。この古い長持は、死んだ母親の嫁入り道具の一つだった。彼はそれを舟になぞらえて、よく中へ入って遊んだことを覚えていた。そうしていると、やさしかった母親の顔が、闇の中へ幻の様に浮んで来る気さえした。
だが、気がついて見ると、子供達の方は、探しあぐんでか、ヒッソリして了った様子だった。暫く耳をすましていると、
「つまんないなあ、表へ行って遊ばない」
どこの子供だか、興ざめ顔に、そんなことを云うのが、ごく幽に聞えて来た。
「パパちゃあん」
正一の声であった。それを最後に彼も表へ出て行く気勢だった。
格太郎は、それを聞くと、やっと長持を出る気になった。飛び出して行って、じれ切った子供達を、ウンと驚かせてやろうと思った。そこで勢込んで長持の蓋を持上げようとすると、どうしたことか、蓋は密閉されたままビクとも動かないのだった。