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おせいとうじょう

お勢登場

江戸川 乱歩

「大衆文藝」1926(大正15)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,784 字 · 24 页

青空文庫

「坊や、そんなにあばれるのはよしにして、パパが面白いお噺をして上げるから、皆を呼んどいで」

「やあ、嬉しい」

それを聞くと、正一はいきなり机の下から飛び出して、駈けて行った。

「パパは、とてもお噺が上手なんだよ」

やがて正一は、そんなこまっちゃくれた紹介をしながら、同勢を引つれた恰好で、格太郎の部屋へ入って来た。

「サア、お噺しとくれ。恐いお噺がいいんだよ」

子供達は、目白押しにそこへ坐って、好奇の目を輝かしながら、あるものは恥しそうに、おずおずして、格太郎の顔を眺めるのであった。彼等は格太郎の病気のことなど知らなかったし、知っていても子供のことだから、大人の訪問客の様に、いやに用心深い態度など見せなかった。格太郎にはそれも嬉しいのである。

彼はそこで、此頃になく元気づいて、子供達の喜び相なお噺を思い出しながら、「昔ある国によくの深い王様があったのだよ」と始めるのであった。一つのお噺を終っても、子供達は「もっともっと」といって諾かなかった。彼は望まれるままに、二つ三つとお噺の数を重ねて行った。そうして子供達と一緒にお伽噺の世界をさまよっている内に、彼は益々上機嫌になって来るのだった。