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おならさま

お奈良さま

坂口 安吾

「別冊小説新潮 第八巻第一〇号」1954(昭和29)年7月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,159 字 · 20 页

青空文庫

ので、自然あきらめるようになった。ちかごろでは心境も円熟したから、泣きの涙の人々を慰めてあげるような意味において心おきなくオナラをたれることができるようになった。

さすがに若年未熟のころは檀家の門をくぐる時にも胸騒がしく、人々が彼のことをオナラサマと陰で云ってるものだから、仕方なしに檀家の玄関に立った時に自分の方から「ハイ、今日は。オナラサマでございます」と名乗りをあげて乗りこむような苦心をした。さすがに憮然として人知れずわが身の定めに暗涙をのんだような静夜もあって、せめてその文字だけはお奈良さまをあてたいと身を切られるような切なさで祈りを重ねた年月もあった。

こういう彼のことで、いろいろと特別のモノイリがかさむ。というのは、檀家全部が彼のお奈良を快く認めてくれたわけではないから、告別式やお通夜に大音の発生を心痛せられるような檀家もあって、そのような時には導師たる自分の後に必要以上に多人数の従僧を何列かに侍らせてトーチカをつくって防音する。彼の宗旨は幸いに木魚カネその他楽器を多く用いて読経するから多人数の読経の場合は楽の音とコーラスによって完全な防音を行うことができる。