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おさかなじょし

お魚女史

坂口 安吾

「八雲 第三巻第八号」八雲書店、1948(昭和23)年8月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,457 字 · 19 页

青空文庫

あなた、なんて云うの? ア名刺があったネ、佐野龍代クンネ、龍代さんは香港で入院していたの?」

「イヤらしい子ネ。先生たら、文士なんか、なんですかア、先生のお弟子なんて、みんな、こんなキチガイなんですのウ」

「ハッハッハ。ボクはキミ、健全な人間なんだ。日本人的でないだけなんだよ。香港なんかも、人間はいないよねエ。田舎だからネ」

「香港、香港、て、さっきからネゴトばっかり言ってるわね」

「香港じゃア、なかったの」

「バカなんですよ、アンタは。アンタみたいなチンピラが、編輯長だの、詩人だのッて、それで私が香港のスパイのッて、からかってるのが判らないの」

「これは、イケネエ。ハハハ、その手があったかネ。まんざら、キチガイでもなかったんだネ。じゃアネ、ウン、そうなんだ、キミはむしろ利巧なんだネ、キチガイに類することが、その証拠なんだヨ。美人だからなア。美人はすでにキチガイじゃないんだ。美はねエ、それ自身、正常それ自体ですよ、ねエ、そうなんだよ。ハハハ」

と、弁吉は悠々として、たじろがない。佐野龍代女史は動物園の玄関番の怪獣ぶりにムッとした様子であるが、チンピラがこの有様では、目ざす猛獣の習性が予測しがたくなったらしく、柄になく沈黙している。