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くちなし
くちなし
宮本 百合子
「中央公論」1938(昭和13)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,907 字 · 8 页
ところが、その船の修繕には二ヵ月もかかって、その冬期は見す見す何杯かのがしてしまったが、手間どったには理由があった。
話はヨーロッパ大戦当時にまで遡る。当時そこへ新たにドックをこしらえて儲けた某という人物があった。大戦終局とともに持ちきれなくなって、O・Tに売ることになり、O・Tから某の友人であった二人が専務として入った。その一人は技術家である。某はこの技術家と特に親交があって、将来はこの人に経営させる口約もしたのだそうである。
最近資本系統が代って、その技術家はやめることになり、退職金を半分貰ったきりなので、愈々そのドックをやりはじめたいと、O・Tと交渉したが、某は既に没しているので、裁判沙汰となった。書類というものはなかったから、どうも技術家の不利である。そこで、もう一人の専務が羽織を一着に及んだ乾分をO・T社長宅へやった。行った人間は、白鞘をすこしのぞかせたそうだ。裁判は急転直下、有利に解決し、今度は乾分をやった方の男が音頭をとって経営しはじめたが、この男は満州へばかり度々出かけるし、濫費するので、遂に専務をやめざるを得なくなった。
ここへ別の一人物が登場して来る。