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ぐうたらどうちゅうき
ぐうたら道中記
佐々木 邦
「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页
と亭主は忽ち大きく出て、
「今朝は生憎と霞んでいますが、好く晴れた日には富士山が一間半に見えます」
「一間半とは何うして測定したのだろう?」
と団さんは数字が出るとすぐに理窟っぽくなる。しかし亭主は、
「丁度一間半ございますな」
と物指を当てたように繰り返して、説明の必要を認めなかった。鳥羽の人は日の山公園は東洋一、富士山は一間半と確信している。
「兄貴め、僕の山登りの下手なのを知っていて、態こんな素天辺の宿屋へ指して寄越しやがった。以後脚の弱いものに必ずこゝを推薦してやることだね」
と団さんは景色には余り興味を持っていない。
「東京も結構でございましょうが、男としては何と申してもやはりこの辺の島へ生れて来るのが一番の果報でございますな」
と少時してから亭主はツク/″\感じたように言い出した。
「何故ね?」
と今度は三輪さんが相手になった。
「女房が皆海女でございますからな。亭主は些っとも稼ぎません。亭主一人養えないようなら女の屑だと申すことになっていますから、この辺の島ぐらい男の楽なところはありません」
「それは耳よりな話だね」
と団さんが喜んだ。
「亭主は女房が海の中でセッセと稼いでいる間くわえ煙管で浄瑠璃を語りながら櫓を押していればそれでもう申分ないのでございます。