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ぐうたらどうちゅうき
ぐうたら道中記
佐々木 邦
「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页
芭蕉翁と言っても通りがかりの人には通じない。続いて蓑虫庵へ向った折にも、
「一寸お尋ね致しますが、この辺に蓑虫庵というのはありませんか?」
「知りまへんなあ、そんなものは」
「芭蕉はんのいたところで、この見当だと聞いて参りましたが……」
「芭蕉はん? そんな人存じまへんなあ」
といった調子だった。
「驚いたね。誰も知らない。翁も案外人気がないんだね。矢張り予言者は故郷に尊ばれないのか知ら?」
とお父さんは頻に首を傾げていた。
「君、相手が悪いんだよ。先刻から選りに選って女子供やヨボ/\爺さんにばかり訊いているからさ」
と三輪さんが注意した。
「要するに発句なんてものは現代生活に没交渉だという証明さ。あゝ、腹が空った」
と団さんは芭蕉が俳人だということ丈けは知っているようだった。
漸く探し当てた揚句の果が、庵は今では個人の別荘とあって門が閉っていた。
「これでは町の人も知らない筈だよ。住宅になっているんだもの」
とお父さんは翁のために弁じたが、拝見させて戴くのに又少時手間を取ったので、
「何うも君達は物見高くて困る。こんな安普請がそんなに有難いのかなあ」
と腹のへった団さんは頗る不平らしかった。