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ぐうたらどうちゅうき
ぐうたら道中記
佐々木 邦
「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页
御器量の好かったお方丈けに、呼ばれますと随分道心堅固な男でも退っ引きの叶わなくなるようなそれは/\優しい声を出すそうでございますよ」
「昨今の小川君のようなら大丈夫でしょうがね」
とお父さんが調子を合わせた。
「何う致しまして。小川などは一声で真っ逆さまに飛び込んでしまう組でございますよ。ところがその重役の方は予ねてこの話を承知して居りました。そこで帰宅の晩い時には彼処は通らないで、廻り道をすることにしていましたのに、主人なぞにも能くあります。あの交際とか申すのが、矢張り身の破滅の因でございました。或晩のことその交際とかで夜を更かして酒の勢でつい彼処へ差しかゝったのでございました」
「一声で飛び込んでしまったんですね」
「否、直ぐに逃げ出したのでございました。けれども淀君の声が脳裡に深く沁み込んで翌朝から発熱致しました。医者は何かに怯えたのらしいと申す丈けで治療の方針が立ちません。イヨ/\息を引き取る間際になってお濠端で呼ばれたことが分りました。尚おお濠に縁のないところへ越すようにと申すその折の遺言に従いまして遺族の方はその後島の内へ移ったそうでございます」