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ぐうたらどうちゅうき
ぐうたら道中記
佐々木 邦
「主婦之友」主婦之友社、1922(大正11)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 164,113 字 · 332 页
「そんな余計なことを想像する物好きがあるもんか。君は細君が和歌をやると言っていたが、何か聞き齧って来たんだね?」
と団さんが言った。
「天眼通だね。恐れ入った」
と小林さんは直ぐ降参したのには大笑いだった。
「気候は温和だし人間は朴実だし、申分ありませんな」
とお父さんが褒めた。
「野郎は海へ出て魚を釣るし嚊は家にいて歌を読むしと……」
「もう止せよ。しかし釣魚丈けは玄人になったぜ」
と小林さんは釣道楽と見えた。
「釣れるかい?」
「釣れるさ。毎日曜に海へ出る。余り釣れるので僕の役所には女房を離縁する気になった男さえある」
「それは聞きものですな」
とお父さんが乗り出した。
「何に、何でもないことですよ。私が釣魚に連れて行く男ですが、甲州の山の中のもので、鯛のかゝる度に『これなら女房は離縁しても宜い』と力みます。理由を訊いて見ますと、その男の郷里では一生に一遍即ち祝言の席で予ねて話に聞いていた鯛というものに親しく見参するのが最初の又最後なんだそうです。ところで此方へ来るとその鯛の生きたのが釣れるでしょう?」
「成程、夫れ鯛といっぱ祝言、祝言といっぱ一遍という旧思想が鯛の釣れるのに促されて急に悪化したんですね」