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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
……ね、正面の祭壇の上の、そら、高い高い窓に、つばめがとんでよく止まったりしていたでしょう? ごミサの中ほどで、朝日がさっと差してくると、あの窓が東向きだったから、ぱッと明るくなって、天に上げられなさるマリア様が現われましたねえ。両手をこう胸に重ね、上を向いて、青い長い衣を引いて、桃色の雲に乗って、天使にとりまかれて、ね、青い空を上ってゆきなさるところだったでしょう? ――」
「ああ、そうそう、……みんないっしょに参ったわねえ……」
しばらくは思い出にふけって黙る。やがて、
「なぜ、窓にマリアさまを描いたの?」
「神さまを悦ばすために」
「神さま、ほんとうに悦びなさったの?」
「ほんとうに悦びなさったよ」
「そう。――よかったわね」
カヤノはまたじいっとそのステンドグラスを見つめていたが、やがてたどたどしいラテン語でアヴェ・マリアを歌い出した。これもこの絵に何百年か前、名もない職人がこめた信仰の力におのずから引き出された賛美歌であったにちがいない。そしてカヤノもまた神を悦ばせたい一心から歌っているのであろう。真の信仰とはこんなに単純なものであった。私もカヤノの声について口の中で歌った。