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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
別れの宴会を開くものもあった。
日本人は死に花を咲かせることを尊ぶ。さすがあの人よ、名に負う武士らしい潔い最期だった、華々しい末期だった、りっぱな死に際であったと評判されたいと、日ごろから望んでいるものだ。人の口に賞められたい、歴史に名を残したい……これは当時のキリシタンの心の中にもあった念願であった。
ところが、いろいろな事情から総死刑は行なわれぬことになり、殺されるのはわずか二十六人に決まった。その二十六人というのは、そのころ慈善事業で目立っていたペトロ・バプチスタ神父たち六人の西洋人のほか、二十人の日本人であったが、その二十人がそろいもそろって世間に名も知られぬ者ばかりだった。生まれた土地・姓名・年齢そろってわかっている者はひとりもない。履歴もほとんどわかっていない。中にはただ霊名だけわかって俗名のわからぬ者さえある。
この人びとはかねてから神の教えを正しく信じ、いつも自分のできる範囲内で、小さいながら完徳の道に励んでいたのだ。一点の非のうちどころもない信者だとまわりの者は認めてはいたが、別に世間があっと言うほどの大慈善をするでもなし、何百両と教会へ寄付するでもなし、教会の行事のときに人の目につく役を引き受けるでもなし、つまり人間の目からはあまり大きく見られていなかったのだね。