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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

「それはそうと、ときに――はとは?」

「元気です」

「例のはと仲間ね――」

「はあ」

「戦争を防ぐ少年同盟の仕事のことだが、あれと、この雛の菜ッ葉問題といっしょに考えてみようか――」

「なんの関係があるの?」

「誰が戦争したんだろう? 菜ッ葉が足りないからやったんだね。食べ物さえたくさんやれば戦争しないんだよ。――人間だって似たようなものさ。人口は多いのに、必要な物資が足りないから、国内では階級闘争が起こり、国家の間に戦争が起こるのだ。はと仲間で、戦争を防ごう! と叫ぶのはいいが、ただ叫ぶだけで、戦争の原因をのぞかなけりゃ、なんにもならないね」

「そうですね」

「日本人は戦争が好きだ、と昔から言われているが、戦争の好きな人間がもともとおるものか。だれだって無造作に殺されるのは好かぬだろう。また直接なんの恨みもない相手を出会い頭にいきなり殺すことも好かないよ。大将の命令によって、国の名によって、大勢が逆上して殺し合いするのが戦争だ。個人的な殺人は大罪なのに、集団的な殺し合いが罪でない、とはどうして言えるのだろう? 日本のさむらいが戦争に出かける前と、すんだ後で必ずお酒を飲んだのは、自分の殺されることの恐ろしさをごまかすためというよりも、むしろ人殺しによる良心のとがめをごまかすためだったと思う。