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このこをのこして

この子を残して

永井 隆

「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页

青空文庫

ところが今は電話がある、電信がある、郵便がある。奴隷の使いはいらなくなった。電熱器がある、ガスがある、スイッチをひねるか、ライターをぱちんとやれば炊事はできる。山へ行って薪を切ったり、その薪を割って乾かしたり、火打ち石でかっちんかっちん火を出したりする奴隷はいらぬ。捕鯨船、冷蔵装置などのおかげで南洋の鯨もここで食える。という具合いで、現代のアメリカ人の生活は一人が八十人分の人力を使っているのと同じだということだ。つまり科学の力で、今アメリカでは人口の八十倍の人間の時間と労力とが節約されて浮いていることになる。どうだ?」

「やあ! 大したものだなあ!」

「誠一が今、このお茶をお父さんに入れてくれたのだが、何分かかったろうね?」

「さあ、井戸からくみ上げて、湯沸かしに入れて、七輪に火を起こして、ばたばたあおぎながら沸くのを待って……」

「これが科学的な設備が壊されずに残っていたら? ――」

「水道をひねって、電熱器のスイッチをひねれば、おしまいだよ」

「ね、何分間かが浮くだろう。一つの仕事をするのにもこれだ。それが積もり積もれば大したものさ。叔母さんが配給所の前に立たされている時間のむだと脚の疲れだけでもなくしてあげたいものだね。