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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
いい人があったら来ていただこうかな、と私は時に思わぬでもなかった。日常生活において私は、困るとか、不自由とかの程度ではなく、まったく途方に暮れることがしばしばあった。それ配給、それ申告書提出、それ共同作業、などと触れが回ってくるたびに、隣近所の小母さん方に代理をお願いせねばならぬ心苦しさ。近所の再婚した人の子供がきちんとした身なりをしているのに比べて、わが子の着たきりの一枚の夏衣のむさくるしさを見るにつけ、新しいお母さんを迎えて世話をしてもらうのが善いのではなかろうかと、深く考えこむこともあった。いわしの配給があっても、そこらに生えた菜っ葉をちぎってきてのお汁に決まっていて、これをぬた、すのもの、てんぷらなどに料理して食わせたら、どんなに悦ぶだろう、と思うばかり。お芋もちょっと手を入れて、茶巾しぼりにして与えれば、いいおやつになるんだがと、これまた思うばかり。焼け跡から徳利を拾ってそれに何か布を巻きつけ、ササノ、ササノと呼んで、だっこしたり、おんぶしたり独り遊んでいるカヤノを見ると、この小屋に女手がありさえすれば、人形らしい人形を作ってくれるだろうに……。