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このこをのこして
この子を残して
永井 隆
「この子を殘して」大日本雄辯会講談社、1948(昭和23)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 102,102 字 · 203 页
もし綱がとどかなかったら、漁師は浮き袋でも木箱でもなんでも浮く物を投げてよこすだろう。何も投げる物がなかったら、ざんぶと海にとびこんで、必ず救い上げてくれるにちがいない。たとい注射器はなくても医者さえおれば安心である。たとい綱はなくとも漁師が近くにいさえすれば遭難者は救われる。
私は注射器であった。私がこわれて亡くなっても、私を使っていた神がそのままおられるのだから、何か他の手段でこの子の苦しみを癒してくださる。私は綱にすぎなかった。私がついに水底に沈んでも、私を投げた神がそのままここにおられるのだから、必ずこの子を荒波から救い上げてくださる。――何も心配することはないじゃないか?
「――ゆえに恐るることなかれ」
大保証である。これを聞いてなお、くよくよ、びくびく、あれこれ思う者はあるまい。
「恐れるな、お父さんが守っているよ。案ずるな、お父さんがそばについているよ」神はこうささやく。「誠一はお父さんが創ったかわいい子だからね。カヤノもお父さんの愛によって生まれた子だからね。大丈夫、大丈夫。さあ、朗らかに!」
だが、しかし……
天にまします父とは超自然のもの、宗教上のもの、目に見えぬもの、その声の聞こえぬもの。