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さまようまちのさまよういえのさまようひとびと
さまよう町のさまよう家のさまよう人々
国枝 史郎
「探偵」1931(昭和6)年7月~11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,916 字 · 75 页
「でも妾、きっと頑強に……」
「いや夫れよりこうなさいまし」
私は思い付いて云いました。
「私の恋人におなりなさい」
「…………」
「私に今夜買われなさい」
「不可ません! 貴郎も、まあそんなこと!」
「いや誤解しては不可ません。只それは形式なのです。つまり然ういうことにして、貴方の貞操を守ってあげましょう」
女は合点がついたようでした。
うな垂れて細い声で礼を云いました。
(さてこの野郎だが何うしたものかな)
気絶している支那人を、私は足でこづき乍ら、その始末を考えました。が、どうせその中に蘇生するのですから、何処かへころがして置けばよいと、こう思って少しばかり離れたところにある、四辻の隅へ引っ張って行きました。
それから一時間も経った頃、私とその娘とは上の町の、迚も華麗な寝台づきの部屋で、静に話して居りました。
娘の名は澄子と云い、十九歳だということでした。
よい体格のしっかりした気象の、好感の持てる娘でした。
澄子は身の上を語りました。
それによると彼女は名古屋の産れで、女学校も卒業し、職業婦人になろうと思って、いろいろ職を求めたが、思わしい職業が見付からない。