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さるすべり

さるすべり

山本 周五郎

「富士」大日本雄辯會講談社、1943(昭和18)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,095 字 · 24 页

青空文庫

「どうも城下の者がたちのく模様なのです」番の者は手をあげて指し示した、「あちらへ車を曳いてまいる組がございましょう、白石川のほうへもあのように、さきほどから荷を背負った者がひきもきらず続いております」そのとおりだった、町の南北から荷物を背にし、車や馬に積んだ人々が、三々五々城下そとへと出てゆくところである、かれらの足もとから灰色の土埃が濛々と舞いたち、荒れた田地のほうへと条をなしてなびいていた。町民のたちのきは合戦の近いことの証しである、その点ではむしろふしぎなほどかれらは敏感だった。天守からおりて来た治部介は、しかしなんにも云わずに午睡をはじめた、平常と少しも変らず、例のとおりの「はっきとせぬ」挙措である、まだ兵たちの持場もきめてないし、鉄砲と弓とをどういう組にわけるかもきまっていない。――城下のようすでは、いつ敵が反攻して来るかも知れないのに、これではいったいどう戦ったらいいんだ。口にはださないが、誰も彼もそう考えて苛だちはじめたのがよくわかった、けれども治部介は鼾さえかいて眠りこけていた。

結局その日はなにごともなかった、翌日、北目城の片倉景綱からようすを尋ねに使者をよこした。