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しじみがし

しじみ河岸

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页

青空文庫

さしている傘に、雨の音がやや強くなった。律之助はやがて源兵衛店のほうへ戻った。

その日はお絹の父に会い、そのほかに三人の者と話してみた。お絹の父の勝次は寝たきりだし、舌がよくまわらないので、纒まったことはなにも聞けなかった。しかもそばに直次郎がいて、絶えまなしに話しかけ、菓子を出して来て自慢そうに喰べたり、着物を捲って向う脛の古い傷あとをみせたり、四つか五つの子供のように、玩具を持って来て「いっしょに遊ぼう」とせがんだりする。それを飽きずに繰り返すので、律之助はうんざりして立ちあがった。

他の三人との話も、このまえと同じように徒労だった。一人は土屋の人足、一人はぼて振、もう一人は御札売りだったが、ちょっとでも事件に関係のある話になると、みな敏感に口をそらして、そらとぼけた返辞しかしないのであった。

「へえ、さようですか、私はちっとも存じませんな」

「なにしろ稼ぎに追われて、長屋のつきあいなんぞしている暇がねえもんだから、へえ」

「あっしは引越して来たばかりで、そういうことはまるっきりわかりません」

では引越して来たのはいつだと訊くと、「まだ三年にしかならない」