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しじみがし
しじみ河岸
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页
「今日、此処へ集まってもらった理由は、たいていわかっていると思う」
律之助はそう口を切った。
それから彼は事件の内容を詳しく話し、お絹が下手人である筈はないと主張した。二人が好きあっていたことは慥かである、しかし卯之吉にも父親があるし、お絹には寝たきりの父と、白痴の弟があるので、結婚はできないが、さりとて諦めてしまったようでもない。というのが、――卯之吉は二十五歳にもなるのに、まだ嫁も貰わないし、酒も飲まず、わる遊びもせずに稼いでいる。お絹もあたりまえならもっとみいりの多い、楽なしょうばいがある筈だ。たとえ身売りをしないまでも、あの縹緻なら相当な料理茶屋で稼ぐこともできるだろう、それをそうはしないで、手足を汚してその日稼ぎを続けて来た。聞くところによると石担ぎや土方までやったそうだ、――これは卯之吉に義理を立てていたのではないか。二人のあいだに「やがては夫婦になろう」という約束があって、卯之吉はそのために身を堅く稼いでいたし、お絹も浮いたしょうばいで楽をしようとしなかったのではないか。
「私はそうだったように思う」と律之助はかれらを見た、「みんなは相長屋だから、私よりも詳しく知っている筈だ、もしも私の想像がまちがいで、二人はそんな仲ではなかったと、知っていて云うことのできる者がいたら、そう云ってくれ」