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しじみがし
しじみ河岸
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,438 字 · 51 页
と彼は呟いた、「――待てよ」
律之助は直次郎を見た。
「その菓子は誰から貰ったんだ」
「う、――」と直次郎はいった。
「いまなんとかいったようだな、誰かが伝次たちには買ってやらないって、――誰が伝次たちには買ってやらないんだ」
直次郎の顔に苦痛と恐怖の表情があらわれた。それはいたましいほど直截に、苦痛と恐怖感をあらわしていた。
――口止めをされているな。
と律之助は思った。よほど厳しく口止めをされたのだろう、いま訊いてもだめだ。彼はそう思って歩きだした、慥かに直次郎はその名をいった、うっかりして聞きのがしたが、慥かになんとかいった筈だ。
「思いだしてみろ」と彼は舌打ちをした、「――うん、思いだせないか」
律之助は差配の家へ寄った。
源兵衛は家にいた。源兵衛は日当の分配を済ませたといい、残った金を返した。律之助はそれを受取って、勝次と直次郎を誰が世話しているか、と訊いた。長屋の者が面倒をみている、と源兵衛が答えた。長屋の者だけかと訊くと、家主の相模屋でも助けていると答えた。主人の儀平が哀れがって、米味噌ぐらいはみてやれ、といったのだそうである。
「そうか」と律之助がいった、「相模屋が付いているんなら安心だな」