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そのきどをとおって

その木戸を通って

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1959(昭和34)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 页

青空文庫

家扶がなにを云いたがっているか、正四郎にはもう察しがついていた。

「つまり」と彼は云った、「おれにふさを貰えということか」

「それはいかがでございますかな」吉塚は考えぶかそうに云った、「御当家は名門ですし、ふさどのは身許のわからない方ですから、貴方がそのおつもりでも、おそらく老臣がたがお許しにはなるまいと思います」

「老臣がた――」彼の眼が光った、それは紛れもなく敵意と反抗をあらわしていた、「ふん」と彼は冷笑した、「名門といったところで、平松は廃家になっていたものだし、おれはその養子にすぎないじゃないか、嫁選びに干渉されるほどの家柄でもないだろう」

こうして正四郎の気持は、田原権右衛門やともえに対する反抗から、動きだしたようであった。もちろんふさが好きでなかったら、そうむきにはならなかったであろう。彼女がいつ過去のことを思いだすかわからないし、そのとき事情がどう変るかも予測はつかない。そんな不安定な立場の者を娶るというのは冒険である。だが正四郎はいさましく、しかも田原権右衛門にぶつかっていった。

――吃驚して腰でもぬかすな。

こう思って正面から斬り込んだ。