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そのきどをとおって

その木戸を通って

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1959(昭和34)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,448 字 · 44 页

青空文庫

娘にふさという名を付けたこと、自分はふさを妻に直すつもりであること、ついてはふさを田原家の養女にしてもらいたいこと、などを挑戦的な口ぶりで申述べた。あたまからどなりつけられ、拒絶されるものと覚悟をしていたのであるが、田原はどなりもせず、腰をぬかすほど驚きもしなかった。話し終るまで黙って聞いていたし、話が終ってからも暫く黙っていた。その顔には困惑の色がみえたけれども、怒ったようすは少しもなかった。

「ちょっとむずかしいな」やがて田原は静かに云った、「加島家のほうが破談になってまだまがないし、この十二月には殿の御帰国で勘解由どのも供をして来られるから、そのとき相談のうえということにしてはどうか」

正四郎はちょっとわくわくした。

「それでも結構ですが」と彼は云った、「――貴方の御意見はどうでしょうか」

「おれの意見」と云って田原は屹と彼をにらんだ、「おれの意見によっては思案を変えるとでもいうのか」

正四郎は言葉に詰った。田原権右衛門の態度が予想を裏切って、殆んど好意を示すようにみえたため、うれしくなってつい失言してしまった。だらしのないやつだ、まるで追従じゃないか、と彼は自分に舌打ちをした。