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あじさい
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集
佐藤 春夫
佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页
そうして母の枕頭に壁に倚りかかって立っていた死児をわたくしはその母と取り違えたものであった。
幽界からの電波に特別敏感な種類の人間があると云い、彼自身よく幽霊を見たと自称する南方熊楠によれば、夢魔の類はすべて見る人に平行して現われるが、幽霊に限っては必ず見る者の前に直立しているというのである。ところでわたくしの見たものも二度ともたしかに立った人影であった。それにしても、
「お前、何でそんなところに立っているのだ?」
とベッドの上にいた人間にそんなことを話しかけて、それが決してただの寝言ではなかったことを証明するためには、今度こそ黙っているわけにもいかないから、わたくしははじめカーテンのかげで見つけた人影から、その後、昨夜、扉のそばの壁際に倚りかかっていた若い女のはっきりした面相を見て、わたくしに笑いかけようとしていた者のことを、ありのままにのこらず打ち明けることにした。そうしてそれが外ならぬ幽香嬰女だと説明すると、
「赤ん坊で死んだものが、そんなおとなで出て来るのはおかしいではありませんか」
「おかしくはない。幽界で育ったものか、それともわたくしの心のなか(これも一つの幽界である)で成長していたのだよ――生きていたらきっともうこれくらいになっていたろうになあ、というようにね」