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あじさい
たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集
佐藤 春夫
佐藤春夫『たそがれの人間 佐藤春夫怪異小品集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あじさい、幽香嬰女伝、化物屋敷、緑衣の少女、私の父が狸と格闘をした話、幽明、柱時計に噛まれた話。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 41,277 字 · 84 页
それは地階から二階へ二階から三階へ登る二つの階段が一直線につづいていたためであろうか、別だん勾配が急というわけでもないのに眩暈を誘うような感じを伴うのが不愉快であった。その階段を二階まで昇ってみると間取の都合か何かで躍り場が頗る狭い。やっと三尺あるかどうかが疑わしい程である。最もそのわきへ一歩ふみ出すと四尺幅の廊下へ出る。自分の部屋というのはその廊下づたいに三階へ昇る階段の裏手にある六畳の一室であった。雨戸を〆切ったうす暗いなかに雑然と荷物を投げ込んであるせいか陰気ないやな部屋である。もう一間というのは廊下をへだてた向い側で姉はそこにいたとかいうが、二つとも似たりよったりで明窓と浄几とを何れにか求めんと叫びたくなるような情けない気がした。
「あきまへんか。」
と石垣は素早く自分の顔色を見てわざとトボケタ口調である。何れは仮りの宿のつもりではあり、註文も文句も一切言わないという条件で探させたのだから自分は不満を抑えている外はなかったが、先刻この家の表へ立った時から起っていた腹立しいとも情けないとも訝しいとも言えない強いてこれを言えばそれ等の諸感情を打って一丸としてその表面をさびしさで塗りこめたような心持が刻々に迫るのを感じた。