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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

きいや小一郎をこんなところで生活させるのは無理だし、帯刀も許さないだろう。

「きいはおれに期待しているだろうか」と彼は眼をつむったままで呟いた、「断わることはきいの心を傷つけるだろうか」

九月下旬に、檜林で盗伐があった。狩に出ていた村の者がみつけ、木戸から人数が駆けつけた。相手は五人、躰格もよく力も強い男たちで、斧、鉞などのほか、熊を突く槍などを持って、逆に襲いかかって来た。やむなく隼人は刀を抜いて、もっとも強い一人を斬り伏せ、二人に傷を負わせた。――二人の傷はどちらも足で、倒れたまま動けず、他の二人は逃げ去った。隼人は追うなと命じ、傷ついた二人の手当にかかったが、そのとき西沢半四郎があらわれた。西沢がその場にいなかったことは、自分しか知らないと思っていたが、岡村七郎兵衛も気づいていたとみえ、「ようやく重役のおでましか」と皮肉な調子で云った。

西沢は屹と見返した、「重役がどうしたって」

「やっといまおでましかと云ったのさ」

「それはどういう意味だ」

「いままで姿が見えなかったからさ」と岡村が云った、「それともおれの眼が悪くって見えなかったのかもしれないがね」