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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
繩尻を取っていた足軽は、かれらが自由に歩けないようすなので、ゆだんをしているところを突きとばされた。二人は繩付きのまま、つぶてのように走っていったが、かけはしの上へ走りこんだとたんに支柱が折れ、はし板ともつれあいながら、谷底へ落ちていった。
「まえから危ないと思っていたのですが」と足軽は手拭で顔を拭きながら云った、「それでもかげんして渡ればまだ大丈夫だったでしょう、やつらは逃げるのに夢中で、力いっぱい踏みこんだので、腐っていた支え柱が折れたものだと思います」
「木戸の者でなくてよかった」隼人はそう呟いてから、その足軽に訊いた、「ではみんな戻って来るのだな」
「もうやがて着くじぶんです」
隼人は考えた。谷へ落ちた二人は、生死を慥かめるまでもないだろう。あの高さでは助かる率はまったくないから。だが「月便」はぜひもういちど出さなければならない。とすれば、すぐにかけはしを直すことだ。こう思って訊いてみると、村にいる「あたま」のごんぜという者がやるということで、隼人は村へでかけていった。まず正内老人を訪ねてわけを話すと、ごんぜはもう年も六十だし、冬になると腰痛が出て動けなくなる。