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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

――隼人は陽の当るところで、綱の先に股当てを繋いだり、槌や鉄梃を肩から吊るように、革紐で結んだりした。

「今日は私にやらせてくれませんか」と岡村七郎兵衛が来て云った、「貴方に出来ることなら私にも出来るでしょう、なにも貴方が一人占めにすることはないと思いますがね」

隼人は眼もあげなかった。

「おまえが番を延ばすことを、拒む権利はおれにはないそうだが」と隼人は云った、「おれが番頭として当然やるべき仕事をするのに、よけいな口出しをする権限は」

「きさまにはない、ですか」岡村はわざと憎たらしい調子で云った、「私にはどうも貴方が臨済かなにかの修行僧のようにみえてしようがないんですがね」

隼人は黙っていた。そして、岡村七郎兵衛が言葉を継ごうとすると、その出ばなを挫くように云った。

「そう人をおだてないでくれ」

岡村は口をつぐみ、それから、ひそめた声で云った、「私はときどき貴方の顔を、拳固で思うさま殴りつけたくなることがある」

「どうしてやらないんだ」

「まえならやってますよ、しかしいまはだめです、いまの貴方は殴り返さないでしょうからね」と岡村は云った、「藩校の道場で、私が稽古をつけてもらっていたころの貴方は、もっときっぱりと男らしかった、稽古のつけかたもきびしく水際立っていたし、怒ったときの貴方の眼を、見返すことのできる者は一