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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

生きてゆけません」

「それはいつかまた話すとしよう」

「いや、お願いです、少なくとも城下へ戻って、人がましいくらしをするだけは不可能です、貴方が流人村のために働くなら、私にその手助けをさせて下さい」

「妻女や子供はどうする」

「ここへ呼びます」西沢は伏し眼になった、「妻は来てくれるでしょうし、ここでくらすことも反対はしないと思います」

「まだあと二年ある」隼人は眼をそらしながら云った、「番の解けるときが来てもその気持が変らなかったら、そのときまた相談をしよう、――今夜はもう寝るほうがいい」

西沢はなおなにか云いたそうだったが、ではこれを頂いてゆきますと、手紙を巻きおさめ、会釈をして出ていった。――隼人は黙って坐っていた。自分が判断し、その判断にしたがってやったことを、仔細に思い返していたらしい。かなり長い時が経っても、なにごとかなし終ったという、くつろぎの色も、やすらぎの色さえもあらわれなかった。

「すっかり終って、一つのものが始まろうとしているのに」と隼人は呟いた、「――おれにはなにも終ってはいず、なにも始まりはしないようにしか思えない、ただ、すべてが初めに返ったような感じだ」