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ちくしょうだに

ちくしょう谷

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页

青空文庫

「横淵先生からはもう許しが得てある」

帯刀は息を詰め、それから云った、「おれをだしぬいたわけか」

「云えば反対しただろう」隼人はゆっくりと云った、「しかしおれが木戸へゆくのは西沢のためではない、どうか同じことを何度も約束させないでくれ」

「理由も云わずにか」

「まえにちょっと話したが、流人村をなんとかしたいのだ」

「なんとかするとは」

「いってみなければわからない」隼人は左の手で右の肩を揉みながら云った、「これまで調べたところでは、あの部落のことはまるで投げやりになっている、記録は七年まえのものが最後で、そのときの住民は二十七家族で七十四人、男三十八人、女三十六人となっていた、ところが、それさえも十年まえの記録と同一で、実際の調べとは思えないんだ」

「あの部落の話は聞きたくないね、胸が悪くなる」

「そうらしいな」と少し皮肉な口ぶりで隼人は云った、「みんなそうらしい」

「本当にちくしょう谷のことなんかで山へゆくのだとすると、云っておかなければならないと思うが」帯刀はちょっと云いよどんだ、「――これはじつはほかにすすめる人があるんだが、隼人にきいといっしょになってもらってはどうか、という話があるんだ」