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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
理由は云わず、ただ「家名を汚すような過失をしたから」自分はこのまま他国するつもりである。そう主張して親子の縁を切ってもらい、すぐに村へ引返して来た。――そうして、半ば無理じいにまさうちを承知させ、空いていた現在の家で、こごさと二人の生活を始めた。そのころはまだ送られて来る流人があり、食糧の配分にもゆとりがあったため、木戸の監視をのがれるほかには、さして困難なこともなく、他の住民たちとも馴染むようになった。
「正確にいうと、それから四十一年になります」老人は指を折ってみて、頷いた、「さよう、まる四十一年です」
こごさに対して責任をとるというだけではなく、それを機会に、村の住民たちを立ち直らせよう、という計画を持っていた。第一に読み書き、ついで論語のわかりやすい講話、また孝子節婦の伝など、かれらの興を唆るようにつとめて話した。だが、どんなにやってみても、一人としてついてくる者がなかった。反感をもつとか、ひねくれているとかいうのならまだいい。それならまた手段もあるが、かれらにはそれさえもなかった。幾世代も檻の中で生きて来たけもののように、食欲と性欲のほかは、あらゆることに興味を失っていた。