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ちくしょうだに
ちくしょう谷
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1959(昭和34)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,788 字 · 138 页
帯刀は旅嚢の中から手紙を取り出した、「きいから預かって来た、小一郎の手紙もあるそうだ」
隼人はそれを受取って、封を披いた。
あによめの手紙は簡単な時候みまいで、この十七日は亡き良人の一周忌に当るが、お咎めを受けている身の上だから、法要もごく簡略にするつもりである、ということが付け加えてあった。小一郎のは仮名書きであったが、墨をたっぷり含ませた筆で勝手に書いたらしく、字と字がくっついて紙面がまっ黒になってい、殆んど判読することさえできなかった。
「読みかたはおれが教わって来た」と帯刀が側から云った、「こう読むんだ、――叔父さんは山の中で淋しくないか、小一郎は昨日は晒し飴を五つと饅頭を三つと、そのあとに、えーと、というのがはいるんだ、それから煎餅を七枚と芋の田楽を喰べました、もし山の中にも飴や饅頭があるなら、小一郎も叔父さんのところへゆきます、今日は饅頭を三つと、――五つかな、晒し飴を十と、ええばかばかしい」
帯刀は片手を振りあげた、「まあそういった文面だそうだ、ぜひおれにこう読めと云うもんだから読んだまでだが、われながらばかなはなしだ」
「それほどでもないさ」