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しゅんきんしょう

ちくま日本文学014 谷崎潤一郎

谷崎 潤一郎

谷崎潤一郎『ちくま日本文学014 谷崎潤一郎』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春琴抄、吉野葛。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 85,196 字 · 169 页

青空文庫

人であるから生れつきの才能もあったろうけれどももし春琴に仕える機会を与えられずまた何かにつけて彼女に同化しようとする熱烈な愛情がなかったならば、恐らく佐助は鵙屋の暖簾を分けてもらい一介の薬種商として平凡に世を終ったであろう後年盲目となり検校の位を称してからも常に自分の技は遠く春琴に及ばずと為し全くお師匠様の啓発によってここまで来たのであるといっていた。春琴を九天の高さに持ち上げ百歩も二百歩も謙っていた佐助であるからかかる言葉をそのまま受け取る訳には行かないが、技の優劣はとにかくとして春琴の方がより天才肌であり佐助は刻苦精励する努力家であったことだけは間違いがあるまい。彼が密かに一挺の三味線を手に入れようとして主家から給される時々の手あてや使い先で貰う祝儀などを貯金し出したのは十四歳の暮であって翌年の夏ようよう粗末な稽古三味線を買い求めると番頭に見咎められぬように棹と胴とを別々に天井裏の寝部屋へ持ち込み、夜な夜な朋輩の寝静まるのを待って独り稽古をしたのである。しかし当初は、父祖の業を継ぐ目的で丁稚奉公に住み込んだ身の将来これを本職にしようという覚悟も自信もあった